グッドワイフ

【グッドワイフ】“怪優”吉田鋼太郎が演じる脇坂検事の魅力



蓮見壮一郎(唐沢寿明)を目の敵にして、ドラマ冒頭からかっ飛ばしてくれた“嫌な奴”。

杏子(常盤貴子)らの前に度々立ちはだかり、いろいろとやらかしてくれた脇坂博道検事。

誰が見ても「うわぁ…」と感じてしまうそのキャラクターを、吉田鋼太郎さんが見事に演じています。

ドーベルマンか?!と思うほど真っ黒い内面をむき出しにしたかと思えば、己の保身のためにはチワワのように従順にもなる。

こんな“豊か”なキャラクターはきっと他の誰にも演じることはできないでしょう。

そしてまさに狂言回しともいうべき暗躍ぶり。

彼の“活躍(?)”がなければ、物語はここまで進んでこなかったに違いありません。



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嫉妬と羨望

脇坂は、検事としてはおそらく優秀であったはず。

しかしその二期後輩に壮一郎がいたことから検察庁のトップには手が届かないと評価されてきました。

同期ならいざ知らず…優秀で男前、美しい妻と賢い子供たちというファミリーも円満というパーフェクトな後輩に全てを持っていかれるというのは、プライドが高い彼にとっては我慢ならない状況が続いたのではないでしょうか。

その蓄積した嫉妬と羨望は、壮一郎が東京地検特捜部の部長を拝命したことでピークに達していたはずです。

なぜなら、そのために脇坂は横浜地検へと移動させられ、出世のメインストリームからは外れることになってしまったのですから。

壮一郎が収賄容疑で逮捕されたことで、思いがけず転がり込んできた特捜部長の椅子。

それを死守すべく、恫喝し、杏子らを挑発する暴走するぶり。

なりふり構わないその姿は、滑稽ですらありました。



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離婚、そして転機

冒頭から彼の描写には左手の薬指の指輪がちらちらと写り込んでいました。

それを見るたびに「この嫌な男の嫁とは、どんな女性だろう?」「苦労しているんだろうなぁ」などと妄想していましたが。
思わぬ形で凄いクリーンヒットを飛ばしてくれたのが、その妻・怜子(峯村リエ)でした。

第5話「夫婦の条件」で、杏子を代理人に指名して離婚の意思を示したのです。

彼女曰く。
出世ゲームに夢中で自分に対して無関心、ほとんど家政婦状態で、別居のための荷造りをしていたのに気づきもしなかった、と。

子供がいなかったせいもあってか、脇坂が家庭に向けるエネルギーは殆どなかったのではないでしょうか。

そして怜子は言うのです。

財産分与は現金で清算して頂戴。
あなたの見栄とコンプレックスでいっぱいの趣味の悪い家はいらない。

脇坂にしてみれば、まさに青天の霹靂であったろうその離婚劇。

当然彼はゴネにゴネ、「愛しているんだ!」とか「離婚はしない!」と言いますが、さっくりと悟りを開いて胸を張る玲子には哀願も恫喝も効果は皆無でした。

妻・怜子

動じることもなく脇坂をいなして離婚を勝ち取った怜子を演じた峯村リエさんは、これもまた大河「真田丸」などで名をはせている素敵なバイプレーヤーです。

吉田鋼太郎さんも信長役で出演されていましたが、同じ場面には登場していなかったのが残念です。

彼女からもたらされた情報___脇坂のパソコンに、壮一郎のデータがあった、と言うのです。

脇坂を前にして怜子は言い放ちます。

あなたのパソコンの中身。
離婚するための武器をいろいろ探したの。
パスワードがあなたの名前と誕生日で助かった…ホントに自分が大っ好きなのね!

怜子のおかげで、脇坂の為人、その情報量は数倍に膨れ上がったと思いませんか?

違法捜査の残滓

検察庁の操作データが家のパソコンにあったことが知られたら大問題になる、それを逆手にとって離婚を勝ち取った怜子は、こっそりとその内容を杏子に告げました。

フォルダの中身は、杏子のマンションの盗聴データ。

果たして。

業者がその盗聴器を発見し、壮一郎はその違法捜査をネタに脇坂に圧力をかけて保釈を勝ち取ったのです。

怜子の存在がなければ、停滞した物語はなかなか進まなかったかもしれません。

見栄っ張り、そしてフェミニスト?

気に入らないことがあると、佐々木(滝藤賢一)ら部下の前で書類をまき散らし、オフィスの物品を蹴飛ばして大暴れ。

その場を切り抜けるためなら上司に土下座もいとわない。

そんな脇坂は、しかし女性の前、たとえ敵対する杏子の前でも怜子に揺さぶりをかけられて取り乱しながらもダンディな姿を保ち続けていました。

それこそが彼の矜持だったのでしょう。

第9話では、返り咲いた壮一郎に最後の仕返しとばかりに、円香と壮一郎の不適切な関係を示す証拠をもって神山・多田弁護士事務所を訪れました。

お茶をもってきた凛子(末永みゆ)に見せた態度、そして「ありがとう」と言う言葉はちょっと滑稽なほどキメキメで見栄っ張りな風情満載。

怜子の言葉を思い出して、思わず笑ってしまいました。

杏子に「夫婦の絆の強さを見せていただいた」とチクリ。

これまでの非礼を詫びつつも、最後に棘を刺さずにはいられなかっただろう彼のもたらしたものは、杏子にとっては人生を根底からひっくり返すようなものだったのです。

これがなければ、蓮見夫妻は再構築。
壮一郎が執念をもって多田を潰すような真似をしなくても、収まるところに皆がそれぞれに収まって、少しずつ平穏を取り戻していたのかもしれません。

その爆弾___たった一度とはいえ犯してしまった過ちによって、杏子は離婚を決意し、荒れ狂った壮一郎は多田を徹底的に潰す算段を始め…神山・多田法律事務所に東京地検特捜部の黒い群れが段ボール箱を抱えて現れることになってしまったのです。



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吉田鋼太郎さんという素敵な人

シェイクスピア劇に魅せられてこの世界に入ったという吉田鋼太郎さんは、もともと舞台の人でしたが、小栗旬さんとの共演によって映像作品に参加するようになった知る人ぞ知る名優でした。

蜷川幸雄さんの数々の作品に出演して蓄積した経験から、異端の人物までをくるくると演じ分ける謎のおじさんです。

さいたま芸術劇場では、蜷川さんの没後に演出を引き継いだのです。

悪い人、不気味な人を演じさせれば背筋が凍るような凄みを見せ、チャーミングな人を演じさせたら万人に愛される、そんな役者さんです。

ことに朝ドラ「花子とアン」では不器用な九州の大富豪を演じて日本中に顔と名前が知られるようになり、昨年は「おっさんずラブ」ではまるで恋する乙女のような中年男性を演じ、大好評でした。

しかし、あまり知られていないことですが、「おっさんずラブ」は連ドラになる二年前、2016年の大晦日の深夜にスペシャルドラマとして放送されており、その時の彼のお芝居には腰を抜かしそうになるほど驚きました。

恋する彼

田中圭くん演じる“ハルタ”に恋をした部長。

その設定は連ドラと似ていましたが。

離婚してまで彼に気持ちをささげたのに、ありきたりな言葉でやんわり拒絶されたとき、彼は泣き崩れました。

「なんでぇえええええええ…」
その声音も身を震わせて泣く風情も、乙女そのもの。

しかしそれは真摯な恋が叶わない哀しみと、ハルタを思う恋心を爆発させた、素敵な感情の発露でした。

あの年齢、そしてあのキャリアの役者さんで、身も世もなく泣き崩れる芝居ができる人が他にいるとはちょっと思えない…。

大晦日の晩に凄いもの見ちゃったな、と思ったら、満を持しての連ドラ化。

納得の結果だったのです。


…でも両方を見て、そのインパクトの鮮烈さからいえば、最初の単発ドラマの方が彼の描き方は好きでした。

もし機会があったら、今回の脇坂と”部長”を見比べてみると、より一層楽しめるはずです。

ドーベルマンからチワワ

あくまでも私見ですが。

「グッドワイフ」の中の“悪い人”脇坂は壮一郎を攻めに攻めている様子は真っ黒いドーベルマンのような、まさに狂犬のイメージでした。

壮一郎が復帰し、検事正に就任するとその配下となったわけで、手のひらを返してひれ伏すことになったのです。

なぜなら、左遷されたくなければ手を貸すように、という壮一郎に諾々と従い、多田(小泉孝太郎)を逮捕するために暗躍しました。

その様子は、不満できゃんきゃん吠えながらも飼い主に従順にならざるを得ないチワワのよう。

それでもまだ返り咲きを諦めていない脇坂の“黒さ”を、最終話でどこまで表現しきれるか。

素晴らしい狂言回しぶりを見せてくれた脇坂・吉田鋼太郎さんの演技に注目してみると、より一層その展開を楽しめるはずです!



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